うしても心は眩《くら》まない。
 外からの刺戟が雑多になればなるほど、自分の心を統治して行く何物かの力は確実になって、苦しさに堪えないほど、いろいろなものはその真実のままはっきりと自分の心に写って来る。かなり恐れている自分自らの死に対しても、このときの私は平常の十分の一ほどの恐怖も、いくじなさも持たなかった。
 一日一日と一つ本を読むごとに、人の話を聞く毎にだんだん自分の心にはっきりとした輝きを持って来る、生の尊さのため真の善のため、人間らしい人間になろうため、朝から夜まで命がけの努力をして行きながらでも、若しか急に明日死ななければならないことになったら、自分は死ななければならない。自分が或る場合、他の人々の上にも肯定しなければならない、死ならば、自分の上にも肯定しなければならない。近頃或る立派な美術家が、自分の死までの経過を観察しながら絶命されたことを聞いたときの感歎が心に再生して来るのを感じた。忘却も憎むことはできない。
 心は非常な痛み、苦しみをもって重く深く沈湎《ちんめん》して行く。けれどもそれは、目のとどくかぎりの奥まで澄み透っているらしい心持がする。
 そして明かに力の感じ
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