。世界の隅々を廻って歩いて思いがけない処から思いがけない逸物を掘り出す愉しさは、考えただけでもぞくぞくする……然し」
 彼は、滑稽に凋れて歎息した。
「悲しいことには金もなし、第一妻君の許可が出そうにもありません」
「ハハハハ。その許可ばかりは君の方から出させたくもなしだろう。ハハハハこれは愉快だ。――奥さん」
 子爵は体を捩って、長椅子の婦人達に声をかけた。日下部太郎は、これに応えて向けた妻の笑顔が、いかにも儀礼に強いられたものであるのに、一向気付かなかった。彼は、辞し去る間際に迄、
「一寸。――お前先に……」
と云って側棚の前に立った。瞬間を惜む彼の瞥見に、疑問のジョルジョの皿は更にまじまじと、底深く煌く紅玉色の閃光で瞬きかえした。

        四

 自動車は、ヘッド・ライトの蒼白い光で、陰気に松の大木が見え隠れする暗い濠端に沿うて駛《はし》っている。
 外界の闇や動揺に神経が馴れると、日下部太郎は忽ち、見て来たばかりのマジョリカのことを考え始めた。
 彼は人知れず自負している通り、多くの古陶器愛好家などが陥り易い、病的な所有慾には煩わされていなかった。彼は寧ろ寛大な観賞家
前へ 次へ
全34ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング