伊太利亜の古陶
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)徐《おもむ》ろに
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)直径九|吋《インチ》もあろうか。
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「木+解」、読みは「かしわ」、第3水準1−86−22、435−6]
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一
晩餐が終り、程よい時が経つと当夜の主人である高畠子爵は、
「どれ――」
と云いながら客夫妻、夫人を見廻し徐《おもむ》ろに椅子をずらした。
「書斎へでもおいで願いますかな」
「どうぞ……」
卓子《テーブル》の彼方の端から、古風な灰色の装で蝋のような顔立ちの夫人が軽く一同に会釈した。
「お飲物は彼方にさしあげるように申しつけてございますから……」
「じゃあいかがです日下部さん――日本流に早速婦人方も御一緒願うとして悠《ゆっ》くり寛ろごうじゃありませんか」
「お先に」
「いや、どうぞ子爵から……」
戸口でおきまりの譲り合いの後、高畠子爵が先に立って部屋を出た。後から日下部太郎が続く。彼の艶のよい、後頭部にだけ軟かな半白な髪
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