、落付かない妙な感じは、千代と二人で食事をした時、一層強くさほ子の胸にはびこった。
 馴れない者同士と云うより異った居心地わるさがあった。千代の優婉らしい挙止の裡にはさほ子が圧迫を感じる底力があった。千代の方は一向平然としている丈、さほ子は神経質になった。
 千代を傍観者として後片づけをしていると、良人は、さほ子に訊いた。
「どうだね?」
 気づかれのした彼女は、ぐったり腕椅子に靠れ込み、髪をなおしながら、余り快活でなく呟いた。
「さあ。――少し疑問よ」
 同じように不活溌な千代の手にやや悩まされながら二日目の朝食がすむと、さほ子は、三畳の彼女の部屋に行って見た。
 千代は、きのう来た時と勝るとも劣らない化粧をこらした顔を窓に向け、ちんまり机の前に坐っていた。
 机の上には、小さい本立と人形が置いてある。人形――人形。
 さほ子は、変な間の悪さを覚えた。彼女は、曾祖母が維新前、十六でお嫁に行く時、人形を籠の中で抱いて行ったと云う話を思い出した。
 今の時代の十九の、故郷を出奔した娘が此那大きな人形を抱いて来ると想像出来ようか。いじらしいような心持と、わざとらしさを嫌う心持が交々《こもご
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