ぼりの様な手の中に入れる事を――
精女 御さわりにならないで下さいませ。
ペーン 何故? 私はきたないものなんかは一寸もさわりゃしない――お前の手をさわりたいために私の花園で一番美くしい花の精をぬって来たほどだもの。
精女 御やめ下さいませ、何となく悪い事の起る前兆の様な気が致します。
ペーン 悪い事? 私は若い、そいで相応に見っともなくないだけに美くしい、それが若い美くしいやさしい精女に恋をする、何故悪い事だろう?
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精女沈黙。重って来た困る事にすき通る様なかおをして壺のかすかに光るのを見る。ペーンはそのかおを眉のあたりからズーッと見廻して神秘的の美くしさに思わず身ぶるいをしてひくいながら心のこもった声で云う。
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ペーン マア何と云う御前は美くしい事だ。そのこまっかい肌、そのうす赤くすき通る耳たぼをもって居る御前は――世界中にある美くしいものにつける形容詞を集めても御前の美くしさを云う事は出来まいネー。
精女 ――
ペーン お前はだまって居る。そのしまった口元、見つめた目つき――美くしい事だ、
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