ほんとうに。ビーナス殿の頬の豊かさも眼の涼しさも御前にはキット及ばないに違いない。
精女 そんなにおっしゃらないで下さいませ、そんなにおっしゃられるほどのものじゃあございませんですから――
ペーン まっしろな銀で作った白孔雀の様な――夜光球や蛋白石でかざった置物の様な――私はそう思って居るのだよ。
 お前の御主のダイアナも月の冠をかむって御出でるから美くしいのだ、まばゆい車にのっていらっしゃるから立派なのだ。
 お前の方がよっぽど美くしいと私は思って居るのだ。
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精女、沈黙。
[#ここで字下げ終わり]
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ペーン ネー、シリンクス? 私は一寸ためらわずにハッキリと「お前を愛して居る」と云えるのだよ。私の前にどんな尊いものがあってもどんなに立派な人が居ても――私はお前の心から侍えて居るダイアナに誓っても――アアそれはいけなかった、月は一晩毎に変るからいつでも同じ太陽に誓ってお前を愛して居るのだよ、どうぞ何とか云って御呉れ。
 ほんとうにお前は私の命なんだから……
精女 おっしゃらないで下さいませ――どうぞ。
ペーン どうぞ云
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