歴史の発展性の上において理解し、整理しなければものにならない。
 われわれは、現在、世界資本主義末期の激化した階級闘争、窮迫した経済事情の裡に生きている。めいめいが一こと二ことに云いつくせない苦痛、憤怒、不安、或は未来の勝利への希望をもって、生き、闘っている。その生活の間に、いろいろ刻みつけられ、忘れようとしても忘られず、独りで坐ってでもいるときには、つい紙に向い、その事件、印象を書きたくなるようなことがある。
 どんな男でも女でも、生きて行くうちに、一つや二つ、ひとりでに書いて見たい心持の起るような経験はもっているものだ。
 ところで、いざ、書翰箋なり原稿紙なりひろげて書きはじめてみると、どうも思うように書けない。胸いっぱいに書きたい気はあるのに、どう筋を立てていいのか、或る事件をどう説明していいのか。到頭根まけがして、クシャクシャに丸めてしまいましたと云う例がよくある。
 この場合、困難は文章をかくということにだけあるのではない。われわれが口を利いて言葉で長い文章をつくれる以上、文章をつづるということ自体は問題でない。真の困難は「書きたいことが一どきに頭に浮んで」始末がつかないとい
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