とにどういう理由で、世界の文学はあらゆる時代を通じて傑れた婦人作家というものを僅かしか持っていないのだろうか?
 封建時代及資本主義社会においてはいつも婦人の社会的地位がひくく、したがって文化的発達の可能が男のもっている可能性に比べて常に限られていた。これが一番基本となる社会的な理由だ。
 音楽、特に女性がこれまで偉大な足跡をのこして来た声楽の場合では、その自然的な条件が文学的創作の場合と大分違う。女の喉しかソプラノの声は出さない。美しいソプラノの出る、または味のあるアルトの出るよい女性の喉を持ってさえおれば、声楽家として第一の必須条件は生理的に具わっている。規律正しい練習、健康法、その他の勉強をしてゆくに強大な忍耐と意志と聰明さがいる。そして、そういう音楽勉強の許される経済事情が必要であるのは明らかだ。それにしても、文学的創作をやってゆく場合より、女性としての自然の生理的条件が、遙かにひろい基礎的な役割をしめる。文学的創作は、理知的な構成力、綜合力を非常に要求する。どういう階級に属していようとも、自分の描こうとする社会、心理を具体的に、観察的に把握し、その全体をひっくるめた相互関係を
前へ 次へ
全39ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング