象だけを捕えたのでは足りない。言葉としてその小説の中に書かれないにしろ、プロレタリア作家は信州の繭安価を日本全体の繭安価の理由と結果とに、引きつづいて世界の農村恐慌へまできっちり結びつけ、その関係において主題を理解しなければならないということだ。そういう見通しなしに、今日の大衆生活の中からのどんな主題も正確に、唯物弁証法的につかむことはできないのだ。
ところである人は、云うかもしれない。今日国際的な関係にあるのは、なにもプロレタリア大衆、プロレタリア作家に限ったことじゃない。ブルジョア文学だって同じことだ、と。
二
なるほど、ブルジョア文学には、投資者、消費者としてのブルジョアのヨーロッパ化した日常生活とともに盛に国際的要素が加わって来た。現に菊池寛が書いている連載小説「勝敗」の中では一回分がフランス化粧料の名、ヨーロッパ画家の名その他で埋められた日があった。
ブルジョア探偵小説の一部としてのスパイ物語は正に国際的舞台を背景としている。中河与一の南洋紀行。吉行エイスケの中国もの[#「中国もの」に傍点]。それぞれ、確に日本以外の外国をとり入れ、それを主題とし
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