強い金網で覆ってある。調帯も、万一はずれた時下で働いている者に怪我させそうな場所は鉄板の覆いがかかっている。
 更衣所で、男の着る作業服に着かえ、足先を麻の布でくるんで膝までの長靴をはいた。すっぽり作業帽をかぶって待っていると、自分も作業服にかえてドミトロフ君がやって来た。そして、
「ホホー」
と思わず笑い出した。私も笑った。というのは私は日本の女の中でも体が小さく丸く五尺に足りない。それがソヴェト同盟の大きい男の作業服を着たのだから、手先はだぶだぶだし、靴はぶかぶかだし、子供の化物のような恰好なのだ。
「工合がわるくないですか?」
 ドミトロフ君は心配気だ。
「平気です。出かけましょうか」
「配燈室」へ入って行くと、丁度今交代で坑内へ下りようとする多勢の労働者が順々に安全燈をとりに来ている。我々一行もその列に並んで窓口から掛の婦人労働者に電気安全燈を貰った。
「配燈室」の入口の廊下から、みんなが列をつくっている場所の壁まで、うまく注意をひきつけるように傷害予防のポスターが貼りまわされている。
「注意! 注意! 命をすてるな」坑内へすてたタバコの吸殼からガス爆発をする絵が描いてある。

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