ばかりすると、この演劇サークル上演の芝居が見られるのだそうだ。ドイツの新式な電気照明装置が舞台についている。
元の廊下をゆくと、右や左にいくつもの室が並んでいる。真先に目につくのは「レーニン主義共産青年同盟」「地区委員会(赤色労働組合)」「全同盟共産党・ボルシェビキ」とそれぞれ高く入口に札をかかげた部屋部屋だ。その先に図書室がつづいている。ドミトロフ君が静にドアをあけたところから内部を見ると、中央の大テーブルをかこんでいろいろの雑誌を数人の男女が熱心に見ている。テーブルの程よいところに眼の衛生を重んじた緑色のカサの卓上電燈が配置されてある。別に独立した小テーブルがいくつかあって、そこではわきに手帖をひろげ、何か専門的な書籍で勉強している人々がある。レーニンの石膏像がこの落着いて知識を吸い込んでいるソヴェト同盟の労働者の姿を見下している。
二十人ばかりの音楽サークルでは男女混声合唱の稽古最中だ。さっき入口で会ったギターをかかえた若い男が指導者で、
「ホラ、そこをもっと強く! つよく、早く、愉快に!」
とやっている。若々しく楽しい歌声はドアをしめても廊下へあふれてきこえる。その歌声をき
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