て来たということが信じられぬような印象を与える。小ざっぱりした平常着姿で本をもったりギターをもったりしている男女労働者に交って廊下へ出ると、つき当りは大舞台の入口だ。
「――今日は生憎何もやっていませんが……」ゴルロフカの労働者とその家族が無料で見物するために映画や芝居、音楽会、講演会などがこの大舞台で行われるのだ。薄暗い内部を見わしたところ、二階まで坐席があってなかなか大きい。モスクワに鉄道従業員組合クラブがあり、そこの舞台は数多いソヴェト同盟の労働者クラブの中でも立派なものとされているが、そこより多数入れそうだ。私はぐるりと見まわしながら、
「何人ぐらい入れるのでしょう」
ときいた。
「六百人はゆっくりです」
ドミトロフ君も満足そうに自分達労働者の力で建てた舞台を眺めていたが、やがてつけ加えて云った。
「この舞台は実に役に立ちますよ。われわれはここで映画や芝居を観てたのしむばかりではない。ソヴェト選挙もここでやるし、新経済年度の真面目な討論会も各坑の代表が集ってここでやる。楽しみの場所であり、真剣な仕事場でもある。――つまりわれわれの建設の両面がここにあるわけですね」
もう半月
前へ
次へ
全18ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング