多くを知らなかったのである。p.261
◎われわれの認識の豊かさに徴して明かな通り、われわれが過去に比して感情の一層分化した最初の人間である、という暗示をわれわれに最初に与えたのが 彼であったのである。
 ×しかし時を経て、今日この不幸な分化の終焉はせまっている。再び人間は統一へ、霊と肉との調和をもってしかも休止し、妥協することない活動へ向う時代にさしかかっている。
 ドストイェフスキーの考えかたをふえんすれば
「現代は個々の精神が彼の時代におけるような循環的混沌の中に上下していられないほど、精神の闘争力の源泉としての調和、性の一致を求め必要として来ている。それだけ限界は日常から拡大され、群としての人間精神の類型との対決の時期に立ち到っているのである。
  広津和郎の「懐疑に耐える精神の強靭性」の破たん
 そういう統一や調和が単純[#「単純」に傍点]に見えるひとは、そのような統一や調和をもって 精神が立ち向わなくてはならない現代の地球的混沌の本質がわかっていないからにすぎない。
 文学の課題はここにある、誰が、どのような作品で、現代がこのような精神によって拓かれるべきことを暗示するであ
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