権威ある数学者で、魅力のある文章をも書いたソーニャ・コバレフスカヤが、まだ若い娘で勉強のため教授コバレフスキーと旅券結婚をしてスウィスへ行ったのもこの時分のことである。これらの、ロシア的情熱に燃え、つよい意志をもった新時代のチャンピオンたちは、本当にどんな感想で、あまり単純でロマンティックなエレーナを、或は何か非現実的で丸彫りでないマリアンナを、自分たちの激しい前進的な生活とひきくらべつつ読んだであろうか。
ツルゲーネフの諸作品が、所謂「美文学」としてハンディキャップをつけてよまれ、一方チェルヌイシェフスキイの「何を為すべきか」が行動の指針として有能な若い男女の間で読まれたということも、おのずから今日肯けるのである。
ツルゲーネフとトルストイとの衝突は既に文学史的な出来ごとである。二人の大作家が十五年間も意志の疏通を欠いたばかりか、或る時は本気で決闘までしかねまじい程激昂したには種々の原因があったに違いない。が、対立の原因となる多くの見解の相違中のただ一つ、恋愛や婦人に対する二人の考えかたの違いだけを見ても、私は十分ツルゲーネフとトルストイは和睦のない対立に置かれたであろうと考える
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