終ったが、それらの社会的実践の間にバルザックは嶮しく現実の社会で対立する利害と渡り合い、あのようなリアリストとして、自身自覚しなかった役割を歴史の上で果した。
 ツルゲーネフは、自分の社会生活においての消極的な面、従って作家としても非現実的に陥り易い面を一番傷けず、苦しめずにおく温床のようなヴィアルドオ夫人との交渉の裡にすっかりうずまって、自分の文学的才能にだけたよって暮した。彼はパリへまで吹きつけて来るロシアの若い時代の嵐を、自身は温室の硝子の内から観察したのであった。

 ツルゲーネフが、女を非常に同情的な態度で描いたことは、彼の作品の顕著な一つの特色であろう。私達はヴィアルドオ夫人がツルゲーネフに与えた深い影響をそこにも感じるのであるが、果して同時代の急進的な若い婦人達は、どんな感想をもって、ツルゲーネフによって描かれたエレーナやマリアンナを読み合ったであろうか。
 七〇年代、八〇年代といえばロシアは「人民の中へ」の運動から「人民の意志」党などの活動へ移った時であり、有名なヴェラ・フィグネルなどを先頭に夥しい数で社会の各層の若い婦人が解放運動に身をもって投じた時代である。世界的な
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