描かれている恋愛の本質を「春の水」のマリヤの気まぐれな恋愛と比べて見た場合、どちらが社会的な価値において高いという、はっきりした選択と主張はされていない。
あれを書き、これも書きという風にツルゲーネフは、自分の気分に応じてそれぞれ全く相反する「父と子」や「煙」を書いている。
ロシアの急進的な若い男女は、階級と階級との益々明らかな対立、そこから生じる現実の烈しい鍛錬によって、「ルージン」の時代から「その前夜」「処女地」へと推移した。ツルゲーネフも、それにつれて外側から観察しそれぞれの時代の作品を書いて行ったが、パリにおける自身の生活の実践ではヴィアルドオ夫人に支配され、始めの時代の懶《ものう》い形態から本質的には何の飛躍もしないままに残ったのである。
同じように婦人のために生涯多くの経験をもったバルザックの生きかたとツルゲーネフの生きかたとを思い合わせると、私は実に活々した興味と教訓とを覚える。
ツルゲーネフより十九年上のバルザックは、ベルニー夫人やアブランテス公夫人との様々な交渉の間に、自分の経済的必要から、種々の或る場合は極めて筋のあやしい事業にまで手を出し遂に悲劇的な生涯を
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