は一層かたくそれと結合する。その相剋の間に、各々の個性が最も覆いもなく独特の調子、やりかたをもって発動し、それを大きく社会的に観れば自分の所属する階級の崩壊へ、或は前進への必然の道を遂行するのである。
ツルゲーネフは、恋愛を制約する社会性というものの力を洞察し得なかった。当時のロシアの民衆の生活はゴーリキイの幼年時代によって明らかなように野蛮な暗い農奴制ののこりものである家長制に圧しつけられていた。農民、労働者の間に個性の自由や恋愛ののびのびした開花は無智と窮乏によって、貴族と小市民との間にあっては封建的なしきたりで、それが凍らされていた。
個性の解放を欲求した面でツルゲーネフは全く生々しい若いロシアの要求を表現したのであるが、それを恋愛の行為にだけ納めて自分から納得したところに、彼の徒食階級の作家らしい非現実性が見られるのである。
ツルゲーネフの見かたに従うと、或る一つの恋愛がこの社会にあって歴史の発展とどういう関係で結ばれているかということは、作品の主要な問題ではない。恋愛のいきさつ一般が人生の波瀾の中心事であると考えられている。従って、作者の腹に入って見ると、「その前夜」に
前へ
次へ
全24ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング