にすっかり馴れているらしく、
――実際いい室だ、ここは!
ズンズン窓際へ行って河を眺めた。
――こんなに景色のいい室はそうないんだ。僕んとこから要塞なんか見えない。
――ね、Nさん!
エレーナ・アレクサンドロヴナはNを呼んだ。
――まだ朝飯あがってないんでしょう?
――停車場から真すぐ来たんです。
――我々んところの食堂は十二時でないと開かないんですけれど、お湯は台所にいつでも沸いてますから御自由にお茶あがって下さい。
彼女は、二人の日本女に説明した。
――台所もおつかいになっていいんです、皆さんここでは家のようにやってらっしゃるんですから、室の鍵は、お出かけんなるとき台所にある箱の中へかけておおきんなって下さい。
ソヴェト内閣直属で、学者生活保全《ツェークーブ》委員会というのがある。「|学者の家《ドーム・ウチョーヌイフ》」はその委員会に管理されている。ツェークーブは「学者の家」のほかに附属の病院、診療所、「休みの家」、クラブなどをもっている。
モスクワ、レーニングラード、ロストフその他少し目ぼしいСССРの都会は、街のどっかにきっと「農民の家」と看板をかかげた
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