ナ・アレクサンドロヴナ。
――我等の主婦、ユアサ・サン、チュージョー・サンです。
――おめにかかれて本当に愉快です。
Nが日本語でしゃべっていた間、栗色の目に微笑をたたえてNの顔や二人の日本女の顔を見ていた大柄な中年婦人は、改めてていねいに眼で挨拶し、手を出した。
――今日は。
その手にさわって日本女は変な気がした。というのは、その我等の主婦[#「我等の主婦」に傍点]はまるで札幌にいるイギリスの独身女宣教師みたいに力を入れない握手をしたのだ。まるきり手を握らないことはソヴェトで珍しくない。だがこういう握手――
――フランス語おはなしなさいますか?
まわりがあまり静かすぎるのと一緒に日本女は気がむしゃついた。
――私どもなら話しますからどうぞ。
――英語は残念ながら私にわかりません。
エレーナ・アレクサンドロヴナは当然の結果としてロシア語で愛想よくいった。
――この「学者の家」へ日本の女のかた、特に作家などを迎えたのはこれがはじめてです。どうぞゆっくりしていらして下さい、室はお気に入りましたか?
――ええ、大層、……ありがとう。
Nはこの主婦[#「主婦」に傍点]
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