建物をもっている。そして遠いか近いか、やっぱり同じ市のどこかに「学者の家」をもっている。社会主義文化建設のための専門技術家である学者達が、会議、見学、ごくたまに私用でその市へやって来る。外国から来る者もある。ホテルに室がなかったり費用がかかりすぎる場合、静かに簡単な何日かの滞在をするため、事情によっては無料でその「学者の家」を利用する便利を与えられている。
まして外国人である場合、「学者」という定義の解釈が四通八達である実例は、女監督エレーナ・アレクサンドロヴナを母さんと呼びかけそうになじんでここに暮している日本青年Nによって示されている。彼は将来学者にもなるだろう。だが現在のところではNがひどい砂糖ずきである以外学者の徴候は現してない。また、二人の文筆労働者である日本女の滞在によっても証明される。
日本女は、室の隅におかれた大きな旅行籠の前へひざまずき、ともかく茶を飲むべく、四角な茶カン、二本のアルミニュームの匙、砂糖を出して、古風な更紗張テーブルへおいた。
アメリカからエジソンがソヴェト見学にやって来たとする。ゴーリキーがソレントから故郷へ客に来たとする。彼等の荷物にもちろん
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