むべきか」簡単なインド事情紹介の本の名があげられている。
「|若い観衆《トユーズ》の劇場」は芸術的な演出、特色あるギリシャ式舞台でヨーロッパ各国に知られている。芸術部員は、研究室をもって、舞台装置、衣裳、照明。専門にわかれ、それぞれ最近の様式をとり入れて、劇芸術としての完成を努めている。
 一方、教育部は、いま日本女のとなりに腰かけて、注意深く舞台と若い観衆との間におこる呼吸のメリ、ハリを観察している白い髯の教育部長をはじめ、どうしたら子供をよろこばせ、しかもその間に労働、政治、科学、芸術の訓練をあくまで社会主義的主題の内に統一して与え得るかということを熱心に研究しているのである。
 劇場の入口に一枚大きなビラが貼ってあった。六月十日から二週間の上演順序である。
 十日――十五日。インドの子供。(三年生のために)
 十六、七日。皇子と乞食。(二年生のために)
 十九――二十一日。アンクル・トムの小舎。(四年生のために)
 観衆の年齢に応じて、脚本の内容はだんだん複雑になって来ている。それより日本女を羨ましがらせたのは、その下の「五月二十九日からの切符配分」という表だ。レーニングラード市
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