リシチ・クズニェツォー※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]が、私に何か話せといいました。だけれど、私のロシア語は下手だから、みなさん、知りたいと思うこと私にきいてくれませんか? 私の知っていることなら答えたいと思います。
 日本女は、まるで柔かい発音で、
 ――私のいうこと、わかりますか?
 と問いながら、まわりに重なっている婦人講習会員の顔を見まわした。
 ――わかる!
 ――わかります。
 ――心配しなさるな!
 クズニェツォー※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]は今日も繭紬の布《プラトーク》だ。たっぷりした胸つきで、みんなの横に立っている。日本女に向って鼓舞するように頭をふった。
 ――…………
 ――あの――日本に……日本では女が参政権を持ってるんでしょうか?
 二重に重なった頭の奥からのびあがって第一に質問したのは、白ブラウズを着た髪の赤い女だ。
 日本女は、持ってないと返事した。日本では全国労働者総数の五十一パーセント、女が占めている。けれどもそのおびただしい女のほとんど大多数は男の半額の賃銀で搾取されているだけで、選挙権などは持ってないのだ。
 前列の机に両肱
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