助力なしに何も出来ない。……ああ、あなた、暇ですか?
百二十四番の室へ、来なければならなかった。
――じゃ丁度いい、今日あの人たちあなたと話す時間がないが、きっと、それを希望しているだろうと思います。もう一遍よってくれませんか?
勿論、異議のあろうはずはない。だが、このひとはいつ休むのだろうか? 日本女は、
――あなた、休暇もうすんだんですか?
と繭紬の布《プラトーク》にきいた。
――これから、……この講習がすんでから。
彼女は二十五だ。共産主義大学を来年卒業するところである。共産主義大学の生徒は、他のソヴェトの専門学校と同じく、夏の休みを必ず実習につかう。彼女もここで休みの一部をそういう目的に費している。
――……私、小さい娘がいるんですよ、十一ヵ月の。
ふと、あたたかく微笑みながら元気な彼女がいった。
――今は、彼女の父親と田舎に暮しているけれども……
後の窓からぱっとさし込む明るい光が、いろんな色の髪の毛を照している。(約束した、明後日という日のことだ。)なかにたった一つ、黒い黒い髪がある。それは日本女のである。
彼女は、立って、いっている。
――タワー
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