助力なしに何も出来ない。……ああ、あなた、暇ですか?
 百二十四番の室へ、来なければならなかった。
 ――じゃ丁度いい、今日あの人たちあなたと話す時間がないが、きっと、それを希望しているだろうと思います。もう一遍よってくれませんか?
 勿論、異議のあろうはずはない。だが、このひとはいつ休むのだろうか? 日本女は、
 ――あなた、休暇もうすんだんですか?
と繭紬の布《プラトーク》にきいた。
 ――これから、……この講習がすんでから。
 彼女は二十五だ。共産主義大学を来年卒業するところである。共産主義大学の生徒は、他のソヴェトの専門学校と同じく、夏の休みを必ず実習につかう。彼女もここで休みの一部をそういう目的に費している。
 ――……私、小さい娘がいるんですよ、十一ヵ月の。
 ふと、あたたかく微笑みながら元気な彼女がいった。
 ――今は、彼女の父親と田舎に暮しているけれども……

 後の窓からぱっとさし込む明るい光が、いろんな色の髪の毛を照している。(約束した、明後日という日のことだ。)なかにたった一つ、黒い黒い髪がある。それは日本女のである。
 彼女は、立って、いっている。
 ――タワー
前へ 次へ
全54ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング