R・S・Sに対する私の同情を声高く語」ったのであった。
 作家ジイドの生涯を貫く最も著しい特質、純粋な誠実[#「純粋な誠実」に傍点]を自他に求める情熱への自覚的献身の欲求が、今度のソヴェト旅行では、かえってジイドの現実的理解を制約する力となっていることは、実に意義深い我々への教訓であると思う。旧世界の文化の裡にあって彼を宗教や家庭の因習に立ち向わせ、腐敗から彼の個性を清潔に保たせて来た力は、疑いもなく彼の主観の中に燃えるこの不安な程の純粋誠実[#「純粋誠実」に傍点]への情熱であった。この知的な武器の力を、ジイドは明らかに波瀾の多い生活からの獲物として自ら知っていた。ところが、一方に告白されているような政治的、経済的無識が彼の現実を見る目を支配しているのであるから、ジイドは基本的なところで先ず自己撞着に陥り、観念の中で、心象の中で、把握している新社会の存在が、その本質に於て、違った土台の上に建っている経済的・政治的・文化的現実であることが、具体的にわからなかったように見える。ジイドは、自分がコンゴーを観た観かた、どこでも、何にも目を奪われず、常に絶対に誠実であろうとする自己の主観的な常套
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