ドの面前にひろげて見せた。ジイドは、この時ゴム栽培特許権所有者組合の横暴と一年間闘い、商務大臣の偽の誓約に憤った。「人間こそ先ず建直されねばならぬ」だがそれはどんな道によってであろうか。ジイドの考えによれば「人の最も個性的な状態にいることは、なによりも優れた公益をはかっていることになるのだ」が、資本主義ヨーロッパの社会的現実は、果して、人間を個性的に、真の自分たらしめ得ているであろうか。ジイドが目撃する古い社会には「甲殼類」が充満している。彼等は、ジイドが死よりも嫌う同化主義者、保守主義者、生涯に只の一遍も人間の為に献身しようとしなかったために傷つきもしなかった、無疵のままの利己主義者である。社会の枠がこのままであって、猶且つ人間が建直されるということはあり得るであろうか。極めて自然なこの疑問が遂にジイドの目をソヴェト同盟へ向かわしめた。彼の主観的な知的、感覚的探求心を誘いよせた。そして、六十三歳のジイドはそこに「個々の人間の自由な発展こそ、すべての人間の自由な発達の欠くべからざる条件である」ことを理解し、実現せんとしている新社会を発見したのであった。
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