愛的な傾向をもつ。個性の輝かしい拡大としての人間への献身。一九一四年、大戦がヨーロッパの思想的支柱をゆり動かしはじめた時、ポール・クロオデルは飽きることのない執拗さで、清教徒であることをやめたジイドをカソリックへ引っぱり込もうとした。「法王庁の抜穴」を書き終ったところであったジイドは、この宗教的格闘では目覚ましい粘着力を示した。坊主とクロオデルとが彼を妥協へ脅迫する原因となっている自身の性的経験を自ら公然と語ることによって、彼等を沈黙させた。「コリドン」と「一粒の麦若し死なずば」とは、このような歴史を負うている。彼自身が後年自分の前に空間と自己自らの熱意の投影しか見なかったと告白していることは、よく彼の作家的現実を説明している。ジイドは、作品そのものよりむしろその作品に至るまでの彼の内的過程が注目と興味とを牽く特別な作家の一人なのである。
 一九一二年頃から、陪審員としてルアンの重罪裁判に列席するようになり、ジイドの人間の行動、心理の推移に対する関心は、次第に自分の内部省察から、そとの人々の方に向けられて来た。一九二五年のコンゴへの旅行は、資本主義国における植民地経営の裏面の罪悪をジイ
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