デーである。
 例年作家団体は、デモに参加して数十万の勤労者とともに赤い広場でスターリンの激励の言葉に向って、歓呼の声をあげる。
 五月二日はいわば一日の疲れ休みである。

         (2)

 閑散な日の光をあびて、劇場広場の角に大きな水色の横旗がさがっている。そこに日本語で、
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万国の労働者団結せよ!
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と書いてあるのが、今日は遠くからはっきり見える。
 昨日踵の低い靴をはいて数露里をデモで歩いた婦人労働者達は、今日はおしゃれだ。
 とっておきの靴をはいて、初夏らしい帽子をかぶり手に袋など持って、のんびり散歩している。連れの男も上衣のボタン・ホールにリボンでこしらえたレーニンの肖像入りの飾り(一個二十カペイキ)などがついている。
 小さい鈴蘭の束をさしたのもいる。
 前日大群衆に揉みぬかれた都会モスクワと人とは、くたびれながらも、気は軽い。そう云う風だ。
 店はしまっている。
 物売も出ていない。
 午後になると往来はだんだん混みはじめ、芸術座前の狭い通りは歩道一杯の人だ。みると芸術座の入口に特別はり札が出ている。
 本日は労働者のためだけに開演する。
 前もって職業組合から切符を渡されているモスクワ中の勤労者はこの芸術座ばかりでなく全市の各劇場にわり当てられ、プロレタリアートの祝祭第二晩目をたのしく過すのである。
 芸術座の出しものは「三肥大漢」だった。
 エム・オー・エス・ペー・エス劇場では二日の晩に「憤怒」を上演した。
 五ヵ年計画が実施されるにつれソヴェトではだんだん劇場の上演目録も変った。
 古典的なオペラ・バレーを演じている国立オペラ舞踊劇場でさえ「蹴球選手」という五ヵ年計画を主題の中へとり入れたバレーを上演した。
 カターエフの「前衛」がワフタンゴフ劇場で演じられる。
 レーニングラードからきたトラムは農村における集団農場組織にからんで起ったコムソモール悲劇をみせた。
 エム・オー・エス・ペー・エスの「憤怒」も集団農場の組織を主題としたものだ。
 カターエフの「前衛」は集団農場組織=農村における五ヵ年計画と、都会の工場との結合、貧農の機械化に対する自発性を取り扱っている点なかなか面白いが、一つ重大な誤謬を持っている。それは、集団農場組織にさいして都会から派遣されてきた指導者とそこの富農とが階級的
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