日赤い広場はみちがえるような光景である。
普請中のレーニン廟の数町に渡る板がこいは、あでやかな壁画で被われている。
集団農場の光景だ。
果しない耕地にトラクターが進んでゆく。青葉の繁った木立ちのこっち側には集団牧場がみえる。楽し気な牛、馬、羊、年とった集団農場員が若いもの、孫のようなピオニェール等にかこまれて、働き、ラジオをきき、字をならっている。
鉄橋がある。遠く水力電気発電所がみえる。穀物、家畜を積んだ貨車と、農具を満載した貨車とがすれちがった。
都会だ。工場だ。都会の工業生産と、労働者との姿が巨大に素朴にかかれている。
閲兵式につづいてデモはモスクワ全市のあらゆる街筋から、この赤い広場に流れこむ。
日が暮れて、すべてのデモが解散した後も、ここはまだ一杯の人出である。レーニン廟の板がこいの壁画をめぐって、イルミネーションがともされた。
有名な昔の首切台の中には、雲つくような労働者の群像が飾られている。
強烈なアーク燈に照らされ、群像の上にひるがえる幾流もの赤旗は夜に燃える火のようだ。左手につづく国立物品販売所の正面には、イルミネーションで、
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万国の労働者団結せよ!
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と、書き出されている。
広場の土は数十万の勤労者の足に踏みしだかれ、ポコポコになって、昼間の熱気を含んでいる。ところどころに急設された水飲場の水道栓から溢れる水が、あたりの砂にしみている。河の方から吹く風は爽かだ。
広場に向って開いているラジオ拡声機からは、絶え間なく、活溌な合唱、又は交響楽がはじきだされる。
すばらしいメーデーの飾をみようとして、広場に集まる群衆は一時過ぎてもたえなかった。
ソヴェト同盟で、社会主義的社会建設のために全プロレタリアートが闘っている。農民が闘っている。あらゆる芸術家が同時にそのたたかいに参加している。
メーデーに家にひっこんでいるソヴェト勤労者が一人もいないように、よろこばしいメーデーのために動員されない芸術家というものもない。
たとえばレーニン廟の板がこいに誰があんな壁画を書いただろうか。
プロレタリア画家達だ。メーデーが近づくと、モスクワ・ソヴェト文化部は組織的にプロレタリア画家団体にその仕事を分担させたのだ。
ほとんど夜中まで広場中に鳴り渡った華やかな音楽は、ソヴェト音楽家達のメー
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