どこだ? グイグイ体でステッキとレイン・コートの間をおしわけ、その中へ入ってみたら、ホンの数百人、赤旗を中心に憂鬱な、カンシャクを喰いしばったような顔をしたデモがたっている。
 歌をうたうものもない。反動青年団の袋の中へ追い込まれ、出るもひくもできない。さてどうしようと考えている風だ。
 その時、遠く左手の狭い路の奥でインターナショナルの奏楽が聞えはじめた。
 ソラ! デモがきた。わたしはかならず、その音楽に相応して広場に先着しているデモの中からも湧くような歌が起るだろうと思った。ところが、ほんの一節聞えただけで、音楽はやんだ。
 群衆の頭越しに行進してくるようにみえていた旗もどうやら一つところへとまって進めないようだ。
 いわば反動青年団と、デモンストレーションとの睨み合いだ。数から云っても広場の中に到着しているだけのデモはとても反動団の太いステッキには勝てそうもない。
 わたしは今、この時刻に、モスクワの全市を赤旗と音楽と飛行機の分列式とでおおいながら、壮麗極まるデモで行進しているソヴェトの労働者の有様を思い、ゲンコを握って、このひどい反動的空気をなぐりつけたい気になった。
 実に
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