ワルシャワのメーデー
宮本百合子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)デモをぶちこわそう[#「デモをぶちこわそう」に傍点]
−−

 一九二九年私どもはモスクワからヨーロッパへ旅行に出かけて、ポーランドの首府ワルシャワへちょうど四月三十日の夕方についた。
 雨が降っている。小さな荷物を赤帽に持たせて、改札口へ歩いて行くと、人混みの中からツバのヒラヒラしたソフト帽をかぶった若い男が現れた。そして愛嬌のいい顔をして、英語で「ホテルはどちらへお泊りですか」と声をかけた。
 わたしは、ソラ出たと思った。何故なら、ポーランド人の中にはいろいろな曖昧な職業に従事するものがひどく多いことは、昔、ドストイェフスキーの小説「賭博者」を読んだ時から知っている。ロシア人はこんな格言を持っている。
 ――ポーランド人はなんにもない所から立派なズボンをこしらえる――
 つまりとてもコスイ、油断がならぬと云うわけだ。もっともこのポーランド人の猾さには、ながい政治的な理由が背景となっている。
 帝政時代のロシアはポーランドを政治的にも経済的にもひ
次へ
全11ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング