どくいためつけた。ポーランドのプロレタリアートは被圧迫民族として、乏しい中で生きる道をみつけなければならなかったから、従って鷹揚な気分でいるはずはない。
 現在でもポーランドは独立はしたが、資本主義経済の行づまりの影響をひどく受けて、およそ三十万以上の失業者を持っている。次第に尖鋭になる階級闘争を、ピルスーヅスキーの軍国主義独裁の政治で圧えつけている。
 そういう社会的状勢は知っているが、どうもソフト帽の若者にゴマノハイをやられる気にはならない。黙ってドンドン、ステーションを出ると、今度は車寄せのところで、我々が馬車を傭おうとする、そこへたかって来て、また口を出す。わたしはひどく愛嬌のない声で「あなたの御親切はありがたいが、どうぞほっておいて下さい。あなたの知ったことではないのだから」と云った。
 雨の降る日暮方の街を通ってホテルの玄関へついた。すると、驚いたことには何時のまにかもう、さっきのソフト帽の男が玄関に待っていて、わたしたちが馬車を出るや否や、荷物に手をかけた。今度愛嬌のない声を出したのはわたしのつれの番だ。彼女はロシア語で叫んだ。
「あなたは誰です、さわらないで下さい」
 
前へ 次へ
全11ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング