部屋がきまって二階へ上って行く。その途中でボーイに、
「あの男を知っているの? ここのもの?」
と、きくとボーイは逆に妙な顔をして、
「ヘエ? あなたのお知り合いだと思ってましたが、そうじゃなかったんですか」
と云う次第だ。
 窓からみると外は小さい公園だ。
 並木がある。下にベンチがある。傘をささない男が一人ノロノロ雨の中をやってきて、そのベンチに腰をかけた。ベンチはもちろんずぶぬれだ。男はややしばらく腰をかけていたが、また先へ歩き出した。
 雨はひどくなってアスファルトの上へ雨あしをはじいている。賑やかな街の灯は高い家々の間から公園の向う、男が歩いて行った方とは逆の方に輝いている。
 明日はメーデーだ。
 ポーランドのメーデーはどんな風だろうか、わたしたちはその前年の五月一日にモスクワのメーデーをみた。
 夕飯をたべてから、わたしたちはホテルの帳場へ行った。金モールのおしきせをきた男が、帳場の中に立っている。その男に聞いた。
「明日、メーデーのデモンストレーションはどこであるか知っていますか」
 金モールのおしきせは丁寧な調子で、
「興味をお持ちなんですか」
と、云った。
「ええ、
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