などをきいていると、わたしたちの後へ二人のポーランド将校がやってきた。ポーランドは美人国だそうだから男もせいぜい綺麗にするのかもしれないが、彼等の軍服の華やかなことといったら、玩具の大将みたいだ。ツルツルに剃って、粉をふった頤を、雪のように高いカラーの上にのせて、白い手袋をもって、輝く靴の後では拍車が歩くたんびに鳴っている。
 二人の将校はわたしたちの後に立って、おしきせとの問答をきいていたが、なかの一人が、わたしに向って、カドリールでも踊る時のように、腰をこごめながら、
「あなたは日本の女の方ですね」
と云った。
「え、そうです」
「我々はよく日本の方を知っています。いつもいい印象を与えられています。日本の方におめにかかるのは非常に愉快です」
 日本からいろんな外国へ駐在武官が派遣されている。そういう人々に聞いてみたら、彼等はきっと云うだろう。
「さあ、ポーランドなんかなかなかいい方だね。とても日本人を優待するよ。特別あすこは軍人がもてるからね」
 だが、わたしはどんな駐在武官の細君でもない。思いがけないおついしょうにびっくりして、手にもっていた小さいハンカチーフを絨毯の上へ落した。
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