車輪付椅子、並木路は一杯である。或る女は日曜のエナメル靴を穿いたりしているのだが、この行列《パレイド》は見えない何かを一緒に後へ引っぱって、練り歩いている。日曜が年に五十二度あるという暦だけでこの付ものは消えない。日曜だってヴィクトリア公園の子供の顔は逆三角で、二つでも大きい子が小さい方の子の世話をやきやき並木路を練って行く。ここでは子沢山である。|山の手《ウエスト》の公園で五人も子を連れた夫婦はなかなか見つからない。この並木路の上では子供がひとりでに分裂してまた子供をこしらえでもするように子が多くて、親は二人で、それが最後かあるいは後三人の最初か分らぬ、最近の子を乳母車にのせて押して行く。
 ダリアばかり咲いた花壇の横で若いものがテニスをやっている。六つばかりの男の子が網にしがみついて見ている。飽きず見ている。二人の子をつれて先へ歩いていた親たちが道を角で立ち止ってこちらを見た。
 ――ジョーン!
 網目へ両手の指三本引かけて鼻をおっつけたまま子供には呼声が聞えもしない。山高をかぶった父親が小戻りして来た。
 ――ジョン!
 ぎゅっと子供の手首を引っぱって網からはがした。彼の背広の襟
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