とんだ嘘八百だ! 青年は「男」で女が可愛い「女」だからじゃないか。生物学の仕業だ。弓の玩具なんぞふり廻してまだ一人前の男にもなってないキューピットの果して知ったことか? 聴衆はパイプを口からとって、地面へ唾をはいて、笑っている。
離れた草原で女たちが真上から日に照らされながら足を投げ出していた。子供がいれた胡麻粒みたいにその間をはねてる。路傍演説なんぞ聴く女はほとんどなかった。
池では貸ボートが浮いてる。一人や二人でのっているのはごく少い。五六人ずつで、水の上を動いて低い橋かげをくぐる時なんか歓声をあげている。
ハイド・パアクの池は広く、遠い河のようだった。みぎわを葦がそよいだ。水禽《みずとり》が人々の慰みのためキラキラ水玉をころがして羽ばたきをしたりくちばしで泥から餌をあさったりしている。
ヴィクトリア公園で池は狭い。一寸行くとボートは島みたいなものにぶつかったり、橋げたにすいつく。それでも、市《シティー》大会社の腰高椅子や卸問屋の地下室から来たらしい若者達はコンクリートではない水をバチャバチャかきわけ、空気と日光を感じて日曜を笑っている。
乳母車。これを押す男女。子供。
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