るために年三四千ポンドを負担するに堪えなくなったのです。昨今の形勢では折角それらの人々を教育してもかえって逆な利益の為に利用されることになってしまうので、残念ながら断然閉鎖に決心しました。
 西日が表戸の真鍮板と売家の広告の上に照っている。真鍮板の「労働大学」という字がキラキラ往来に向って光った。

 日曜日である。店はしまっている。閑静な通りを乗合自動車《オムニバス》が展望を楽しみつつガラスを輝やかせつつ数少なく走っている。
 聖ピータア寺院の石だたみでよごれた鳩の群が餌をひろっていた。子供づれの男女が立って紙の中からパン屑をまいてやっている。日曜以外の日ここの大石段は常に大勢の何時になったらそこをどくのか分らないような連中で占領されていた。或る者は石段にかけ、ひろげた膝に肱をつっかって頭を手の中へ埋め込んでた。すっかり扉の下まで登り切ったところでごろりと長く横になってる者もある。大石段は目的のない人間のいろんな姿態《ポーズ》で一杯に重くされ、丹念に暇にあかして薄い紙と厚い紙とがはなればなれになるまで踏みにじられた煙草の吸口などが落ちていた。ボソボソ水気なしでパンをかじった。鳩が飛ん
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