にある。遊牧時代のある日、そういう丘の斜面を一つ円っこい石が転り落ちたのだろう。羊の皮を下腹に巻きつけたMR《ミスター》・ジョンブルの祖先が野蛮なる青春の歓喜に満ちてそれを追っかけ、拾い、また丘のかなたへ叫びながら投げかえした。木の枝で打ち飛ばした。木の枝の切端は専門家がそれについて数頁の説明を費すであろう現在のゴルフの打杖に迄進化した。球を小さくして青羅紗の上へ転して見る。大きい円い奴をふっ飛ばして一つの跳躍する球が人体集団をいかに制約するか、金を儲けて見物する。しゃれたチョッキで見事な馬にのって球のかっ飛しっこをする。――いろんな道具でいろんな工合に球をころがして遊んでるうちに英国人に地球までがあしらい切れる、つまりは一つの大きな球ではないかと云う風に感じられた時代もあったのではなかろうか。
ロンドンのPELL《ペル》・MELL《メル》は有名なクラブ通りである。各々のクラブは会員共通の利害を意味する有形無形の現代的球を中心に、外国人がその会員として推挙されるとそれを一種の名誉に感じる程度の結晶をなしている。王室自動車倶楽部《ローヤル・オートモビール・クラブ》というものがペル・メル
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