の公園ケンシントン・ガーデンにもこういう池があった。午後その池のおもては子供らが浮べる帆走船《ヨット》の玩具で十八世紀のロンドン・ドックのようだった。ヨットの白い帆は母親達の色彩多い装を一層引立てた。
ヴィクトリア公園の池でほっぺたのこけた顔色わるい子供達は玩具がないから脚で水をバジャバジャ蹴ったり、棒切れで仲間に水をはねかしたりした。笑わず遊んだ。大人みたいな様子の女の児の白い下着の裾が水に濡れた。垢じんでるところを濡れたので尻の上まで鼠色にくまがひろがった。水の中へ立ったまんま、十ばかりの男の子がずっと自分より背の高い子を顎の下から突上げた。突かれた方のは、やっと立ってる位のちびの頭の毛を掴んで水へ突込みそうにしてはギャアギャア云わせていたのだ。池の岸に赤セルロイドのしゃぼん箱のふたがころがっていた。
池を眺めて並木路が通っている。木の根っこのこぶに腰かけて半ズボンの男の子が靴下を穿きかけている。前に両方の紐でくくりつけた靴がほうり出してある。
そばでもう一寸年の小さいのがやっぱり同じ作業をやっているのに低いかれたどす声で何か云っている。
――何だって? なぐるぞ。
同じ
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