だ。あなたの運命を自身で判断しなさい。手相占の本もある。ボール札が紐でつる下っている。
  諸君ノ図書館ヲ利用セヨ。
 古本屋は東端《イーストエンド》でイギリス痛風だ。震えた字だ。
 屋根にトタン板を並べた鋳鉄工作所から黒い汚水と馬糞が一緒くたに流れ出して歩道の凹みにたまっている。
 内部は何があるのか解らぬ古コンクリート塀がある。
 からからした夏の太陽ばかりがこれらゆがんで小さい人間のいろんな試みの上に高くて、路幅は広くて、真直な行手は空っぽだ。人々はここで何を食べ着るのか。そんな種類の店がいたって少ない。
 この裏から東端《イーストエンド》唯一の大公園ヴィクトリア公園がひろがっている。
 公園には樹があった。
 樹は青い。樹の下にベンチがあった。両肱の間へ頭を挾んでベンチへまるまって寝ている男がある。
 パイプのない口をぼんやりつぼめて、爺が地べたを見ている。
 日向では婆さん連が並んで、黙って、ロンドンの紫外線少い夏を吸い込もうとしている。日向だと空気中に何だか匂いがした。
 円い池があった。遠浅で下は砂だ。子供等が膝の上まで水に浸って遊んでいる。
 |山の手《ウエストエンド》
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