ルの上に八人分の仕度がしてあった。匙やナイフは銀色に光った。菓子や砂糖や牛乳や。豊富で清潔だ。
――ここで働いている方たちの食堂です。(オックスフォードやケムブリッジ大学には、月千五百円つかう学生だってある。)
娘は隅のテーブルへ連れて行ってアルバムをひろげ日本女の署名を求めた。
往来に面した掲示板に今日は成人教育プログラムともう一つの紙が貼られている。伯爵《アール》某々が下賜された土地(ロンドン市中央よりほぼ一時間)小住宅とともに十五年年賦で分譲する。希望者は事務所へ照会せよ。
ホワイト・チャペル通の交叉点を過ると、街の相貌がだんだん違って来た。家並が低くなった。木造二階家がよろめきながら立っている。往来はひろがり、タクシーなんか一台も通らない。犬もいない。木もない。そして人も少い。太陽だけが頭のテッペンから眉毛の抜けたような街を照りつけている。先の見とおしばかりきく一種の臭いのする白昼の街を乗合自動車《オムニバス》が時々空虚から脱走するように走った。
こんな街に向って「民衆宮《ピープルス・パレス》」の白いペンキ塗鉄の大門扉は堂々ととざされている。土曜日の夜七時からある一
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