、それからこれが昨年の。真中に坐ってらっしゃるのが今の監督です。
 それから、
 ――あら! ここに日本の女の方もいますよ!
 確にそれは日本婦人だった。日本女子大学卒業生型の日本女性代表だ。――が、大体これらの写真はおかしい。一枚の成人教育課程終了者群の写真も無い。淑女紳士《レディス・アンド・ジェントルメン》の写真だけである。足の下には敷かぬ絨毯《カーペット》を前景に拡げ、背後の蔦とともに綺麗に並んだトインビー・ホール居住人――数ヵ月の社会事業見習期間を終った「社会事業家」が監督を中央に記念撮影している。
 樫《オーク》の腰羽目をもった天井の高い室がある。トインビーの等身大肖像画が壁にかかり大きなロンドン市紋章が樫《オーク》の渋い腰羽目に向ってきわめて英国風にエナメルの紅と金を輝やかせつつ欄間にかかっている。タイムス。デイリー・メイル。デイリー・ミラア。新聞の散った小テーブルがゴシック窓の前にあって――ああ。ここから土曜日の午後、一紳士が茶を飲んでいるのが見えたのである。絨毯が敷いてあるから足音がしなかった。今誰もいないがやがてここで茶を飲むであろう人間のために純白の布をかけたテーブ
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