して合理的な性質を帯びた一つの儲け方なのだ。が、それ等のパンフレット第三冊にある哀切な笑えぬ笑い、近代の貧乏について果して何人の英国諧謔家がその同感をよせているであろうか。「衛生的貧者の友」と名づけられるゴム製品がある。それは強靱な厚いゴムによって作られ、特殊な装置によってそれ一つを伸せばワッシャブル・シースとなって夫のため、巻きちぢめればペッサリーとなって妻のため「かくて数年間使用に堪ゆ。資力に限りある者にとっては最も適当、実用的なるものなり。」

 日本女は再びトインビー・ホールの受付へ白封筒とともに現れた。そして水色の服を着た受付の若い娘の後について育児相談室、職業相談室その他を見て廻った。月曜日だ。が、主事は留守だ。相談をもって来る筈の人々も留守だ――どの室にも誰も来ていない。がらんとした室の奥にテーブルがあり、その前で鼻眼鏡をかけたレディが一人で何か記入している。九月になれば講義の始る狭い講堂ではちりをかぶった床几が夜明け前のカフェーだ。窓からさし込む八月の午後の光が灰色の壁の上に逆に立った床几の脚の影を黒くうつしている。何とも云えずあたりは静かである。
 別棟に真中が磨滅し
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