』を買おうとした。売切れた。翌朝また出かけた。また無い。売子は代りに『タイムス』を小型雪掻きの上へのせ突出した。
見事な紙に二十四頁刷ってあるタイムスは四ペンスである。これもたまにはいい。何故ならTHE《ザ》という定冠詞とTIMES《タイムス》という名詞の間に獅子と馬の皇帝紋章が楯をひろげている第一面の下は、全部個人広告欄だ。外国人は時々それを見ることによって、少くともローヤル・アカデミー会員の描いた肖像画展覧会に於けると等しく、英国のあらゆる位階勲等を学ぶことが出来る。包紙としてもなかなか丈夫で役に立った。然し日本女は『デイリー・ヘラルド』を欲しいと思う。
ホテルの玄関は石張りである。そこへ若い女が膝をついてしゃぼんをつけたブラッシュと雑巾を手にもって床洗いをしている。鍵番の爺さんに日本女は明日の朝から『デイリー・ヘラルド』を配達して呉れと云った。するとその金ボタンの大入道は小さい日本女を見下しつつ、云った。
――それは労働党新聞です、|お嬢さん《ミス》。
――知っている。それがほしいんです。
――デイリー・ヘラルドを?
――そうです。
――かしこまりました。
翌朝室
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