フタヌーンティ》を飲んでいる連中は知らずにいられないのだ。そこへ来て一人のきたない酔っぱらいがころがったことを。だが誰もそっちは見なかった。誰一人見ない。それがこの社会の行儀なのだ。ただ反対側の草の上へ菓子のかけらをまきそれへ雀が群がりよると微笑した。
酔っぱらいは草の上へひっくる返っていた。やはり永い間そうやっていた。やがて交る交る膝をついて立ちあがりふらつきながら鉄柵へもどった。然しそこをあちらへは出られない。片手をあげて鳥打帽をぐいと額の上へかぶりなおした。満足した人々はいい装をして静かに草の上で茶を飲んでいる。酔っぱらいはあるき出した。給仕が盆をかついでとおる道の上を――テーブルとテーブルと、ひよけ傘とひよけ傘との間の道を黙ってふらつきながら歩きだした。人々は自然な要求で酔っぱらいの方を見た。が、風体を見ると彼等は云い合わせたように一目で眼をそらした。品のいい話声。茶碗の音。笑声さえするそれは不思議な無人境だ。酔っぱらいは黒い存在と自身の重圧に苦しみながら動いて行った。
行手のプティング・グリーン(球遊びリンク)で英国家庭の見本が午後を楽しんでいる。二人の息子をつれた夫婦と
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