。テーブルに向って坐ってる人々はゆっくり茶を飲みながら気が向くと皿の上からパン片や菓子の粉をとりそれらの鳩や雀に投げてやっている。幼児がよちよちと、母の投げた毬《まり》を追っかけて雀どもを追い立てた。雀はさえずる。低くとび去る。燕尾服に白前掛の給仕が盆をささげてそばを過ぎながら笑って腰をかがめ、毬を今度はテーブルについている母親のあしもとの方へころがしてやった。
 草原は低い鉄柵で囲まれている。
 鉄柵に片脚ひっかけ、平行棒をまたぎそこなったようなかっこうで一人の酔っぱらいがふらついていた。垢の光沢だけが見える服だ。カラーはない。鳥打帽をかぶっている。鉄柵から華やかな喫茶店のひよけ傘まではただ数歩の距離だ。四十がらみの一見まごうかたないその失業酔っぱらいは鉄柵の上でふらふらしながら満足した人々の群を眺めていた。永いこと眺めた。それから帽子を手に持ち、やっこら鉄柵をこっちへ越した。そして直ぐテーブルの傍の草原へ来て仰向にころがった。
 赫黒い顔のついたぼろだ。
 雀はテーブルのまわりでこぼれた菓子の粉をついばみピョンピョンとんでねている酔っぱらいの髪の毛のそばまでまわった。|午後の茶《ア
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