ファベットをつくる計画が起った。同時に、シベリアから一つの投書がモスクワへ届いた。「私の村にはまだ一つも学校が無い。昔の通り耳学問やわずかな独習で我慢しなければならない。一日も早くこの状態から救われたいものだと思う。」ロシアの地面はそんなに尨大である。辺土まで文化を届かせる為にも、中央の圧力を高く、高く。
モスクワ市をかこむ環状|並木道《ブルヴァール》は今美しい五月の新緑である。ストラスナーヤ広場からニキーツキー門まで柔い菩提樹《リーパ》の若葉がくれに、赤、黄、紺、プラカートの波が微風にふくらんだ。並木道の左右に売店が並び、各々が意匠した店名を、「アガニョーク」「ゴスイズダート」青葉の下にかかげている。これはモスクワの書籍市だ。菩提樹《リーパ》の新緑、空のプラカート。構成派風な売店の塗料の色彩、すべて新鮮だ。アーチをくぐって無数の市民をひきよせる。樹蔭のベンチにいると、モスクワ読書人をなしている男女のあらゆる分野、年齢の見本を――教授、作家、労働者、学生、今は絵本をかかえて勇み歩く将来のピオニェールまでを包括する党員などの、鳥瞰図を、実に種々雑多な彼等の服装とともに眺め得る音楽がある
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