モスクワ印象記
宮本百合子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)韃靼《だったん》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)――|中国の女《キタヤンキ》?――

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)ストロー※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]ヤ
−−

 トゥウェルスカヤの大通を左へ入る。かどの中央出版所にはトルキスタン文字の出版広告がはりだされ、午後は、飾窓に通行人がたかって人間と猫の内臓模型をあかず眺める。緑色の円い韃靼《だったん》帽をかぶった辻待ち橇の馭者が、その人だかりを白髯のなかからながめている。
 中央電信局の建築が、ほとんどできあがった。材料置場の小舎を雪がおおっている。トタンの番小屋のきのこ屋根も白くこおっている。
 ――ダワイ! ダワイ! ダワイ!
 馬橇が六台つながって、横道へはいってきた。セメント袋をつんでいる。工事場の木戸内へ一台ずつ入れられた。番兵は裾長外套の肩に銃をつっている。
 長靴に二月の雪をふみしめ、番兵は右に歩く。左に歩く
次へ
全47ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング