ただし、その払底の間にも、個人が営む売店の棚の下には、大切に紙に包まれたバタがあった。二百グラムで六十カペイキ、又は七十カペイキで売るバタならあったのだ。
 工業化は、ドニエプル河岸に幾箇かのモーターを据えつけようとする。人間の爪は時々きる必要があるものだという日常衛生の知識から始って最高度のイデオロギーまで「文化の革命」へ全СССРは急がなければならない。レーニンも時には南京虫に喰われたであろうというところに、ロシア文化の独特な性質がある。モスクワを中心として、八方へ新文化を放射しようとする。芝居の形で、キノのスクリーンによって、クラブ教育によって、観察の要点を知った者が国立出版所で四十五分費せば、現代СССРがいかに熱心に組織立てて三カペイキ―十五カペイキで「ラジオ組立法」から「何故СССРには二つの党が存在し得ないか」という問題に関する迄の知識を普及させようかと努力して居るかが理解されるであろう。アンリ・バルビュスの新作はフランス語を知らぬ工場のタワーリシチも二十五カペイキの『小説新聞《ロマンガゼータ》』の上でただちに読める。
 今まで文字を持たなかったカフカーズの山奥で、新アル
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