いうマルクスの言葉をもって鋳型から出ていることを理解するであろう。シベリア鉄道の食堂の数百の皿も、鎌と槌とこの標語《ローズング》をもっている。モスクワで汽車を待つ数時間ホテルに坐るなら、ホテルのあらゆるインク・スタンドは、ペン台の上に「プロレタリイ・フセフ・ストラン・ソエジニャアイチェシ!」を浮上らしているのを見る。――全露に国営のホテルはいくらあるか。各々のホテルには幾室あるか。つまりこのようなインク・スタンドだけでも何十万箇無ければならないかと考えた時、そして、СССРは僅か十年を革命後経たばかりであるのを考えた時、彼の心に来る印象は軽くない。政権とは、その最小末端に於てさえ、なお新鋳の、その上には好みの標語を書くことのできる数十万のインク・スタンドを意味するということを、彼は明かに我目に観る。――印象は、ベルリンへ着いて自身の恐るべき独逸《ドイツ》語で頭をひっかき廻された後も、彼の精神の上に遺るであろう。
「生産の合理化」「工業化」は目下のСССРにとって、深大な意味をもつ標語である。ロシアは農業の国だ。一人の労働者に対して八人の農民がいる。
 遠大な目的で、白海から黒海を繋ぐ水
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