。聖旗台によじ登らせる、僧正が十字架を捧げて屈んだり伸びたりするその光景[#「その光景」に傍点]を見ないでは、СССРの新|文化《クリトゥーラ》の大気中に1/3だけ脱皮した彼女の魂《ドゥシャー》がたんのうし得ないのである。

 総ての権力をソヴェトへ。――赤いプラカートが十月の風にはためいて街の上にあった。それ以来、СССРの標語《ローズング》は様々に推移して、現在では、元の蝙蝠《こうもり》座、今の第一諷刺劇場の幕切れにまで赤い布が出る。白い文字がその上にある。文字は左から大きく工業化《インダストリザーチア》へ! メー・デーにモスクワ全市電車が休んだ。自動車と辻馬車も殆ど影を見せぬ市街に、旗、音楽、八十万の行列の赤い波、合唱がモスクワ河をはさんで溢れた。地には埃、空には飛行機、陽気な人なだれを縫って、トラックが一台通った。女が二人のって、ビラを撒いた。ビラはクレムリン城壁の下の芽ぐんだ菩提樹の根にも散った。散り乱れて、インクは春の光に工業化《インダストリザーチア》! インダストリザーチア! タワーリシチ! 工業化《インダストリザーチア》※[#感嘆符二つ、1−8−75] ウラー。
 芝居
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